「蔓牛」(つるうし)その中でも、有名な蔓である「竹ノ谷蔓牛」
この日本の牛を語るうえで外せないであろう、牛を今を尚食べることが出来るお店が、東京の参宮橋に有ります。
年間1~2頭しか屠殺されないこの貴重な牛を「焼肉いぶさな」にて食べてきました。
このお店は、1万店以上ものお店で食べ歩いて有名な来栖けいさんが主宰しているお店でもあります。
まずは、蔓牛を知っておいたほうが面白い。蔓牛とは日本古来の優秀な疫牛の血統を表す言葉。
市場に出回ることがほとんどない牛肉、竹ノ谷蔓牛とはどのような牛肉なのでしょうか。
それを知るためには、まず蔓牛を理解する必要があります。
蔓牛というのは、端的に言うと日本古来からの優良血統の牛です。
蔓牛とは?
日本で古来、中国地方の和牛改良に用いられた系統牛の呼称。体形・能力などの経済形質に美点を備え、しかもそれを確実に子孫に遺伝する優良系統の牛。
出典:精選版 日本国語大辞典
現在でも畜産技術において血統はもちろんすごく重要なのですが、それは昔から変わっていないようです。優良血統の牛のグループの事を蔓牛と呼んでいました。
昔の日本では牛は食用ではなく農耕などで活躍する「疫牛」であることが重要ですので、ここで言う優良血統というのは、
美味しい ✖
頑丈で良く働く 〇
なのだと思います。
そして子供を産ませれば、その優良因子が引き継がれており高値で売却もできる。良いこと尽くしの牛です。
そういった頑丈で体躯も良い血統の牛を「蔓」と称し、重宝していたと言われております。
「蔓」は複数有り竹ノ谷蔓もその中の一つの蔓です。しかし、元祖ともいえる超有名な蔓。
優良な血統種を表す「蔓」という表現は一つのグループだけでなく、複数グループあるわけですが、竹ノ谷蔓もその中の一つです。
ただし、多くの蔓の大元ともいえる蔓であるため、遡っていくと竹ノ谷蔓牛にその由来がある蔓は多いです。
1 竹の谷蔓
これは岡山県阿哲郡新郷村(現神郷町)でつくられたもので,同地方では今日なおこの系統に属するものが多い。この蔓は,隣県の鳥取県日野郡に広がり,さらに島根県仁多郡にも伝わり,また,おそらく広島県へも入ったのではないかと思われるもので,古来まことに有名な蔓である。
~中略~
当時竹の谷系統牛が日野郡へ持ちこまれて大いに賞讃を博し,表蔓,紺屋蔓の分れ蔓となり,また,ここを経由して島根県仁多郡(卜蔵蔓),同能義郡(彦右衛門蔓)と分れ蔓の関係を生じたのではないかといわれている。また,同村内において興平蔓,風呂屋蔓を生じ,千屋村(現新見市千屋)には大赤蔓および寺田蔓を生じ,上形部村(現大佐町)には亀屋蔓というように,各方向に分れ蔓を生じて繁栄した。
出典:岡山県畜産史
正にある意味、日本の牛の元祖たちのグループともいえる牛が竹ノ谷蔓牛なんです。
年間屠殺数1~2頭の重み。タイミングが合わなければお金を出しても食べることが出来ない牛肉。
竹ノ谷蔓牛は、貴重な牛のため屠殺することに対して国の許可が必要なようです。
勝手に食べてはいけない牛さんということになります。
この日私たちが食べることが出来た牛も7歳の経産牛ということでしたので、無事に役目を果たしきった牛を最後に食べるという状態なのだと思います。
↑お金があってもタイミング次第では食べられないなんて凄いですよね。
供給ができないため、市場に出回ることはほとんどあります。多くの方が竹ノ谷蔓牛と聞いても聞いたことが無いのはそのためです。
その貴重な牛を食べるために必要なものは、肉運です。タイミングよく屠殺されて供給されるタイミングでお店を予約していないと食べることはできません。
竹ノ谷蔓牛と黒毛和種を掛け合わせた「いぶさな牛」も食べることが出来ます。
年間1~2頭の供給量ではお店は運営できません。現にこの焼肉屋「いぶさな」でも、私たちが食べたタイミングで、2019年の竹ノ谷蔓牛はほぼ終了。という事でした。
焼肉屋「いぶさな」では、竹ノ谷蔓牛が入荷できないタイミングでは、竹ノ谷蔓牛と黒毛和種をかけあわせた牛、「いぶさな牛」を提供しています。
いぶさな牛、聞きなれない牛の名前だと思います。それもそのはず、このいぶさな牛も年間10頭ほどしか屠殺されない、貴重な牛肉です。
市場に出回ることはほぼ無いと言われています。
とにかく、このお店貴重な牛しか出てこないお店です。
竹ノ谷蔓牛を食べることの出来るお店、「いぶさな」は紹介制。そして完全予約制で、広いお店に1組で食事をします。
長貴重な牛肉を食べることのできるお店は、東京の参宮橋にある「いぶさな」という焼肉屋です。
この「いぶさな」、紹介制そして完全予約制。
紹介が無いと入れませんし、そしてお店は15時・18時・21時スタート時間で、各時間帯基本1組の予約しか受け付けてません。
つまり、お店に行くと自分たちのグループ以外他のお客様はいない状況で焼肉を食べることとなります。
超贅沢
といって、お店が狭いわけでも無く、使われることが無いテーブルが置くにも見える通り結構な広さです。
厨房前のカウンターなどは誰がどのタイミングで使用するのか最早謎ですが、贅沢空間で食事を楽しむことが出来ます。
肉だけでなく調理器具にもこだわりぬいている「いぶさな」特注の台及び鉄板は必見。
超希少な牛肉竹ノ谷蔓牛の肉ですが、それを調理する器具たちもこだわりぬかれた特注品です。
この特注品の品々は考えれば考えるほどに、焼肉を美味しく食べるための「知恵」がつまっています。
肉を乗せる鉄板は、とてつもない分厚さ。これなら肉を乗せても温度低下がおこりにくい。
肉と直接触れる鉄板部分はとても大事です。この鉄板が薄いと肉をのせ焼き始めたときに、どうしても鉄板の温度が低くなってしまい、狙った温度で焼きあげることが出来なくなるからです。
いぶさなの鉄板の厚さは、焼肉屋では初めてみる分厚さを誇っています。
まれに鉄板焼きのお店などで、鉄板の厚さにこだわっているお店は有りますが、焼肉屋では厚さにこだわっているのも、そして見事な分厚い鉄板も初めて見ました。
これならば、牛肉を鉄板に乗せても極端な温度低下が起きにくいため、調理する人が狙った温度で調理を継続できるはずです。
特注の台は高さが秀逸。炭までの距離を確保するために作ったと考えられます。
そして、鉄板をセットする台もかなり考え込まれて作られています。
他のお店に比べて、炭と鉄板までの距離が極端にとってあります。これであれば、炭火で肉を焼く際にメリット・デメリット両方出てしまう、煙が非常に発生しにくい構造です。
炭火での焼肉の場合、肉の脂が炭に滴り落ちると煙が発生し、部位によってはこの煙による燻煙で風味が増したりしますが、繊細な味わいの部位だと燻煙によって味が損なわれる可能性も有ります。
燻煙を防ぐ方法として、ガスを用いたりするわけですがもう一つ考えられるのが、圧倒的火力を備長炭などで確保し、肉から落ちる汁が炭に付着する前に蒸発させてしまうという手も有ります。
こだわった焼鳥屋などでも使われている手法ですが、まさか焼肉でそこまで考えて特注品を作るなどとは夢にも思いませんでした。すばらしい!と心の中で拍手していました。
これであれば俗にいう遠火の強火が実現できます。
↓ご興味ある方は、炭火とガスどちらの焼肉がおいしいのか調査してみた記事読んでみてください。
この、こだわりぬいた調理機器たちを駆使してお店の人がすべての肉を焼いてくれます。
タイミングが合えば店主である来栖けいさんが焼いてくれるのもうれしいポイントです。
↑遠火の強火にてじっくり焼き上げるという事もできますし
↑鉄板の特性を生かした焼きもできる。
様々な技法を駆使して貴重な牛肉たちを焼き上げてくれます。
↑タレはかなり淡い味付け。竹ノ谷蔓牛の味を壊さないようにしているのだと思います。
素材と調理。二つが融合した焼肉は本当に素晴らしいモノでした。コースのみのお店ですが、肉は各部位合わせてトータル300g/人はあるという事です。
しかし、そもそも竹ノ谷蔓牛自体が7歳の経産牛ということで、脂たっぷりという訳でもないですし、お店もしっかりと考えてコースを組み立ててくれており、適度な状態で食事を終えることが出来ました。
最後のサプライズは会計。心してお財布を開きましょう。
サプライズ尽くしの貴重な体験ができたのですが、最後のサプライズは会計でまっていました。
これまで、多くの焼肉屋を食べ歩いてきました。約10年前で300件ぐらいまではカウントしてましたが、 そこからも数多くの店を食べ歩き、嫌というほど焼肉屋さんにはお金を払ってきましたが、自分至上最高の支払額。
いやーー、驚いた。叙々苑の游玄亭がかわいく見えるほどの金額でした。ステーキでもこのクラスの金額は数えるほどです。
一人当たり、約50,000円でした。(焼肉自体は約40,000円)
大人数で焼肉食べに行って、後輩の分をおごる際などにはこういう金額を目の当たりにすることは有りますが、まさかの一人当たりの金額。
お金持ちなら余裕なのでしょうが、庶民には驚きの肉銭闘力でした。
しかし、年間1頭しか屠殺されず市場に出回らない牛肉を食べることが出来た経験はお金では計れません。
牛肉が好き!というのであれば、なんとしても紹介してもらって「いぶさな」に潜入しなくては!です。
会計の時に鼻血が出るほど驚いたのは久しぶりでした。しかし!「肉が好き」と公言しているのであれば一度は食べておきたいお肉です。そして何より店のこだわりが凄くて、今思うと素晴らしい体験に投資出来たなと思っています。(たぶん)